Fight For F(dynamize)
【会場】あうるすぽっと
【上演時間】1時間45分
梅棒の遠山さん作演の初長編。
去年梅キャラメルの短編を見てこんなもんなのか?と思っていた私の度肝を抜く、とんでもない作品でした。
いや、凄いよ。これ。
観劇後感が四季のノートルダムとか、JCSとかと同じだもん。この二作品は私が四季の中でもぶっちぎりで好きな作品です。
つかこうへい作品とも似てるけど、上記の作品の方が近いのは役者と演出が洗練されているから。
舞台上から投げつけられたものが大きすぎて、重すぎて、カテコで立ち上がれない。
立ち上がれないけど、なんとかこの気持ちを伝えなきゃいけないから必死に拍手する。
この立てない感覚、久しぶりに味わった。
演劇ってこれだよ、というのを、まさかノンバーバル作品で味わうとは。
まずコメミュダンサーという名の、アンサンブルあるいはコロスの使い方のうまさ。
上記の作品との共通点でもあるんだけど、やはりこれが上手いと作品の奥行きが半端なくなる。
もうコメミュダンサーの一人一人が、ダンスがはちゃめちゃに上手いのは当たり前という顔をして、全員で場面場面のニュアンスまで完璧に揃え、しかも芝居をしている。
いや、役者じゃん、もう。
ダンスがはちゃめちゃにできるというとんでもないスキルを持った役者じゃん。半端ない。
全員そんなヤバい人達なのに、その中でも一層役者をしてるYOUさんがマジでヤバい。
表情だけでそんなに語られたら、言葉を使う俳優はどんだけ語らなければいけないんだ。
梅棒公演のとき以上にヤバさを見せつけられた。
メインキャスト陣。梅棒公演と違ってあんまり踊らない。なぜならコメミュダンサーがいるから。
じゃあ一体何をするのかというと、やっぱりこっちも芝居をしている。物凄い芝居をしている。カリカチュアライズされてない、人間の弱さと駄目さをそのまま出している。
ここまで滲み出せるの、凄くないですか。
派手なアクションも、声を張ることもなく、ただただリアルにその場にいて、生活している。
それを演劇的に補うコメミュダンサーと合わせると、もうね、伝わってくる感情の量がヤバい。
阿部さんのお父さん、梅キャラメルのときよりも今回の方がずっと印象に残った。現実を超えたリアルだった。
鶴野さん、レフェリーだしOMGのひこひこさんか?と思ったらだいぶウチパパの遠山さんだった。つるとしょを見せつけられた。
振り付けは梅棒公演の中でイレギュラー的に出てくるとにかくめちゃくちゃ格好いい振りがレギュラーで使われている感じでもう皆さんの技術レベルと合わせて最高。
M1が格好良すぎて震える。でもこのナンバーが作品全体の雰囲気を象徴している訳ではなくて混乱。
そして脚本。梅棒じゃ絶対できないやつ。
演出的にはコメミュダンサーの使い方もあって大規模な感じがするんだけど、すごく小さくて個人的な話。家族の話だし。重い。
現代の貧困家庭に起こりうる悲劇が詰め込まれた地獄。
でもそんな地獄に差し込むか細い光を頼りにハッピーエンドに辿り着く奇跡。
現実としてある大きな社会問題を、果たしてフィクションとして、そして奇跡としか呼べないレベルの安易すぎるハッピーエンドで消費していいのかという考え方もあるんだけれども、私はそんな物語があってもいいと思っている。
演劇は、観客の想像力を刺激し、羽ばたかせるものであって、お説教ではないと思っている。
多分この作品を多くの見た人たちは、客席にいるだけなのに息が詰まった。心臓が冷え切る瞬間を体験した。その感覚を知っていれば、傷付いている人を更に傷付けるようなことは減るはず。
私は追い詰められた人たちに出会うたびにこの作品を思い出すだろうし、そういう人達が同じ国で今この瞬間に生きていることも、自分がいつそちら側になるか分からないということも、忘れずに生きていたい。
「普通に面白い」ではない、それこそつかこうへいの言うF1レースみたいな、そんな作品を久しぶりに見られた。やはり演劇は最高。遠山さんのこれからの作品に極大の期待を寄せて。ありがとうございました。